Dance Speaks? ダンスは何を語る? No.3

Frankfurt HBF

 

「ダンスは何を語る」の3回目で最後です。

今回は主にダンサーさんから頂いた

コメントから考えた事。

 

「マラサングレ」を踊った

ダンサーさん達のコメント

前回少しご紹介させていただきました。

 

彼らのコメントを読んだ瞬間には

「良かった、彼らの役に立てた」

との安堵感と喜びで

肩の荷が降りた気がしましたが

少し時間が経つと

その成果は

到底自分の指導力ではないことに

改めて気付きます。

 

昨年からスイス・ベルン大学にて

ダンスサイエンスを学び始めました。

そのきっかけとなったのが

教育学・心理学のコース。

今年の2月に1年目修了のための

プレゼンテーションに

自分が選んだのが

 

“Basic Psychological Needs Theory”

基本的心理欲求理論

(Deci & Ryan, 1985, 2011; Ryan & Deci, 2000)

 

デシとライアンというお二人の

自己決定理論(Self-Determination Theory)という

大元になる理論のミニセオリーの一つで

かなり簡単に言うと

”自発的なモーティベーション”

についてのセオリー。

 

どれだけ自分自身で物事や方向性を決めるのかが

学業成績やパフォーマンス、

精神的な健康に影響を及ぼすのか

という理論になります。

 

「自律性(autonomy)」

「有能感(competence)」

「関係性(relatedness)」

 

3つの心理的な欲求を基本として考えるのですが

これらとダンスを結びつけて考えた授業過程があり

それを深掘りしたものが自分のプレゼンテーションでした。

スライドから1枚だけ…お見せします…↓

 

Basic Psychological Needs_Dance
Basic Psychological Needs_Dance

 

 

 

 

 

 

クラッシックバレエの在り方や

その指導、リハーサルでは

これらの欲求の中で

自律性を欠いてしまう事が多いと感じます。

 

教える側にも、学ぶ側にも

「これが正しい」

「こうあるべき」

という認識があり

それから外れることは

多くの場合は歓迎されませんね…。

 

 

逆にコンテンポラリーでは

自律性が重要なキーポイントになる。

 

どう踊りたいかはダンサーが自分で決める。

 

私の仕事は振付を指導し

振付家のスタイルを伝え

各自の個性を引き出す。

問題点があれば共に考える。

 

そこに私はサポートとしている存在であり

彼らにどう踊るべきかを伝える人間ではありません。

 

そしてそこに

自由やクリエイティビティがあり

”間違い”はない。

個人、個性が尊重されるべき。

 

「マラサングレ」は以前に

世界各国にて踊った人達も多い作品ですが

決して以前に踊った人達のコピーではなく

一人一人の個性を大切にしました。

 

つまりこれは

振付家のカィェターノ、

そして

私とダンサーさん達の共同制作。

 

今回神戸と東京で

3つのキャストの上演をしましたが

3日間ともそれぞれの個性が光っていたと思います。

 

個性が「良し」

他人と違うことも「良し」

 

同じタイミング(ユニソン)で踊る事と

一糸乱さずに踊るために

個性を失うのとは違う。

 

クラッシックバレエ育ちのダンサーさん達には

その感覚が新しかったんだろうと想像します。

 

自分自身をアピールできること、

それが認められることが

結果として自己肯定感にもつながり

達成感も高く感じられるはず。

モーティベーションの向上にも

幸福感にもつながる。

 

自分自身をアピールするには

自分の個性を知らなけらば

または見つけなければならない。

そのためには

口を開けて

餌をもらえるのを待つのではなく

自分で狩りに行って

食べるものを見つけてくる。

生きていく上で

大切な要素であり

ダンサーも同じ。

 

ただやはり日本の

「プロのダンサー」という定義が難しい。

”自分で狩りに行って

食べるものを見つけてくる”

感覚を持っている人は

少ない気がする。

 

海外経験をしたダンサーには

少なからず共感してもらえたのかもしれませんが

この環境下では

アーティストとしての自律も

人間としての自立も

難しい…。

 

心理的な欲求などから離れて見ても

シンプルに

新しいチャレンジから学ぶ事は多い。

他の分野を知ることで

メインの分野に役立つことが

必ずある。

 

自分もコンテンポラリーを始めてから

古典作品の踊りのアプローチが変わり

ジャイロトニックやジャイロキネシスなどを

学んでから身体の使い方に

新しい要素を多く感じ

どちらを始めた時も

「もっと前に知っていたら」

と切実に思いました。

 

多様性が謳われる現在。

人間としても

アーティストとしても成長するため

そしてクラッシックバレエに

身体的にも

芸術的にも

役に立たせるためにも、

多くの事を学び

多くの異なることを感じ

発見していく事が

必ず成長に繋がるはず。

 

今回のダンサーさん達のコメントは

彼らにとっておそらく

何らかの気づきであった。

そこには多くの要因が関連し

私はそのサポートをほんの少しできた…

のかもしれません。

 

冥利に尽きます。

 

ただ全ては紛れもなく

ダンサーさん達が自分自身で

模索をして何かを見つけた。

何かが動いた。

 

彼らがこれから

ポジティブな道を歩んでくれること

祈っています。

写真:フランクフルト、中央駅

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